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大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)2517号 判決

原告

宮田義雄

被告

大阪淡路交通株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは連帯して原告に対し金七一〇、四二五円およびうち金六五〇、四二五円に対する昭和四三年九月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告その余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを六分し、その五を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

四  この判決は一項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは連帯して原告に対し金四、四二六、九八二円およびうち金四、〇七六、九八二円に対する昭和四三年九月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故

原告は、つぎの交通事故により傷害、物損を被つた。

1  日時 昭和四三年九月二一日午前二時二〇分ころ

2  場所 東大阪市衣摺八五一番地先十字型交差点

3  加害車 普通乗用自動車(泉五あ五四八四号)

運転者 被告井上

4  被害車 普通乗用自動車(大阪五み七七〇〇号)

運転者 原告

5  態様 北から南に向つて進行して来た加害車と、東から西に向つて進行して来た被害車とが衝突した。

二  責任原因

1  運行供用者責任(自賠法三条)

被告大阪淡路交通株式会社(以下「被告会社」という。)は、加害車を所有し、自己のため運行の用に供していた。

2  使用者責任(民法七一五条一項)

被告会社は、その営む事業のため、被告井上を雇用し、同被告が被告会社の業務の執行として加害車を運転中、つぎの3記載の過失により本件事故を発生させた。

3  一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告井上は、本件事故当時前記のように加害車を運転して本件事故発生十字型交差点を通過しようとしていたのであるから、前方はもとより、側方道路からの交通にも十分な注意を払い、もし、側方道路から先入している車両があるときにはこれに進路を譲り、かつ、状況に応じては徐行ないし一旦停車もしたうえ交差点に進入し、もつて衝突事故の発生を未然に防止すべき義務があつたにもかかわらず、これを怠つて進行した過失により、同交差点に先入のうえ、これを通過しようとしていた被害車に衝突してこれを傍らの水溝中に転落転覆させるに至つたものである。

三  損害

1  傷害、治療経過等

(一) 傷害

左大腿、右手挫傷、右胸挫傷、脳震盪症、外傷性左大後頭神経炎、左頸叢神経炎等

(二) 治療経過

昭和四三年九月二一日から昭和四五年七月一七日まで牧野病院に通院

同月一一日から今日まで長原病院に通院中

(三) 後遺症

頭痛、肩こり、めまい、耳鳴、眼精疲労、外傷性左大後頭神経炎、左頸叢神経炎等

2  損害額

(一) 治療費 金六三二、二四二円

前記牧野病院における通院治療費として金四一五、七六〇円を要したほか、長原病院における通院治療費のうち昭和四五年七月一一日から同年一二月二四日まで分金二一六、四八二円を支払つている。

(二) 逸失利益 金二、〇六一、三七七円

原告は、事故当時宝くじの売捌に従事し、一か月平均金三四四、二五〇円の収入を得ていたが、前記受傷により、昭和四三年九月二一日から昭和四七年九月二〇日までの四年間稼働が少くとも一四パーセント制限され、これにより右稼働制限率に応じた収入減を招いたものであるから、この逸失利益を年別ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して事故当時における現価額として算定すると、金二、〇六一、三七七円となる。

(三) 物損 金三一三、四五一円

被害車は、原告において昭和四三年一月二九日金四九五、〇〇〇円で購入し、本件事故当時少くとも金三二三、四五一円の時価があつたところ、本件事故により大破し、その時価が金一〇、〇〇〇円に低下したが、もしこれを修理するとすれば、金三四八、一一〇円を要するので、結局、原告は、被害車の破損により事故前後の時価の差額に該当する金三一三、四五一円の損害を被つたものである。

(四) 慰藉料 金五〇〇、〇〇〇円

本件事故の態様、原告の被つた傷害の部位、程度、治療の経過、期間、後遺障害の内容、程度、その他諸般の事情によれば、原告の慰藉料額は、右金額とするのが相当である。

(五) 弁護士費用 金三五〇、〇〇〇円

原告は、本訴の提起、追行を弁護士に委任し、その費用、報酬として右金額を支払う旨約諾している。

四  損害の填補

原告は、自賠保険から金三四五、〇六〇円の支払を受けた。

五  結論

よつて、原告は、被告らに対し本件事故に基づく損害の賠償として金四、四二六、九八二円およびうち弁護士費用を除く金四、〇七六、九八二円に対する事故翌日の昭和四三年九月二二日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

第三答弁

請求原因一項の事実は認める。

同二項の事実は、本件事故につき被告井上に過失があつたとの点を否認し、その余は認める。

請求原因三項の事実は知らない。

同四項の事実は認める。

同五項は争う。

第四抗弁等

一  過失相殺

原告は、本件事故当時被害車を運転して本件事故発生十字型交差点に接近して来た際、右側道路から同交差点に向つて接近して来ている加害車を発見していたのであるから、その動静を仔細に観察し、直ちに減速徐行に移り、もしくは、交差点入口手前において一旦停車し、もつて本件のような衝突事故の発生を未然に防止すべき義務があつたにもかかわらず、これを怠り、加害車よりさきに交差点を通過できるものと軽信してそのまま進行を続けた過失により本件事故を惹起するに至つたものであるから、被告らにおいて原告の損害を賠償しなければならないとしても、右賠償額の算定に際しては、右原告の過失が斟酌され、相当の減額がなされなければならない。

二  相殺

被告会社は、本件事故により破損するに至つた加害車の修理のため金一一九、〇〇〇円を要し、これと同額の損害を被るに至つたところ、本件事故は前記のように原告の過失により生じたものであるから、被告会社は、原告に対し右金一一九、〇〇〇円の損害賠償請求権を有するに至つたものである。そこで、被告会社は、右原告に対する損害賠償債権をもつて原告の被告らに対する本訴請求損害賠償債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をする。

三  弁済

原告は、自賠保険からなお金一五四、九四〇円の支払を受けている。

第五抗弁等に対する答弁

抗弁等一、二項の事実は否認する。

同三項の事実は認める。

証拠〔略〕

理由

一  事故

請求原因一項の事実は当事者間に争いがない。

二  責任原因

1  使用者責任

請求原因二項2の事実は過失の点を除き当事者間に争いがないところ、過失の点については、後記2で認定するとおりであるから、被告会社は、民法七一五条一項により本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。

2  一般不法行為責任

〔証拠略〕によれば、つぎのとおりの事実を認めることができる。

本件事故発生地点は、東西に通ずる幅員約五・七メートルの道路と、南北に通ずる幅員約六・五メートルの道路とが十字型に交差する信号機により交通整理の行われていない交差点であつて、右東西道路の南側沿および右南北道路の西側沿は、いずれもどぶ川になつていたため、東西道路の交差点西側出口部分および南北道路の交差点南側出口部分は、いずれも右どぶ川を跨ぐ橋となつており、また、交差点の東北角には食堂の建物があつて、東西道路の交差点以東および南北道路の交差点以北相互間の見透しが不良であり、かつ、本件事故当時交差点付近は、照明もなくて暗く、なお、付近道路における車両の速度は、毎時四〇キロメートルに制限されていた。

さて、被告井上は、本件事故当時右南北道路上を、その東側端との間に一・六メートルの間隔をおくようにして北から南に向い、前記付近道路における車両の制限速度毎時四〇キロメートルを超過する毎時約四五キロメートルの速度で加害車を運転進行しながら前記交差点に接近し、これをそのまま通過しようとして交差点入口手前約七・二メートルの地点に至つたところ、右東西道路上を東から西に向つて進行して来て交差点入口直前に迫つている被害車を、その前照灯の光により発見し、ここに危険を感じ、直ちに急制動措置を講じたが、彼我の間に一一メートルの間隔しかなかつたので、八メートル前進した交差点内で加害車前部をもつて被害車右側面中央部付近に衝突し、その衝撃により被害車を交差点の南西角にあたる前記どぶ川中に、前部を北、後部を南に向けるようにして転落転覆させるとともに、加害車を前記交差点西側出口の橋上南側沿部分に、前部を西、後部を東に向けるようにして停車させた。

他方、原告は、右東西道路上を、その南側端との間に一・五メートルの間隔をおくようにして東から西に向つて被害車を運転進行しながら、右交差点に接近したうえ、交差点内に進入しようとしたところ、前記のように接近して来る加害車を認めたが、さきに通過できるものと考え、そのまま進行したところ、加害車の接近が意外に速く、これに衝突されるに至つた。

以上の事実が認められる(なお、〔証拠略〕中、原告において交差点入口手前で一旦停車したとの点は措信しない。)のであつて、右認定の事実によれば、被告井上は、本件事故当時加害車を運転して、左側の見透しが良くないにもかかわらず、信号機により交通整理の行われていない十字型交差点を直進通過しようとしたのであるから、交差点手前から徐行し、左側道路からの交通につき十分注意を払い、その安全を確認したうえ交差点内に進入し、もつて、安全に通過すべき注意義務があつたところ、これを怠り、漫然毎時約四五キロメートルの速度で交差点内に進入して行つたため、出合頭に被害車と衝突するに至つたものということができ、これによれば、同被告は、本件事故につき過失の責を免れ得ないことが明らかである。

したがつて、被告井上も本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  傷害、治療経過等

〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故により左大腿、右手挫傷、右胸挫傷、脳震盪症の傷害を被り、事故当日の昭和四三年九月二一日から昭和四五年七月一七日までの間一四一回にわたり牧野病院に通院し、内服薬服用、注射等による治療を受けたが、事故後あらわれて来た頭痛、肩こり、めまい、耳鳴、眼精疲労等の症状がなかなか治らないので、同月一一日からは長原病院に通院して前同様方法による治療のほか、患部のスチーム罨法による治療を受けたりしながら今日に至つているところ、このようなかなり長期間の治療にもかかわらず、なお、左頸部や眼底部に疼痛を訴え、いらいらした状態で毎日を送つていることが認められる。

2  損害額

(一)  治療費 金六三二、二四二円

〔証拠略〕を参酌すれば、請求原因三項2(一)の事実を認めることができる。

(二)  逸失利益 金三九四、一九二円

〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故当時常雇の売子四名のほか、臨時の事務員等四名を雇い、大阪梅田の地下街二か所に売店をかまえて宝くじの売捌に従事し、かなり高額の手数料収入を得ていたが、本件事故による前認定受傷のため、右営業に従事できなくなり、ここに、代替の雇人を使用して右営業を続けなければならなくなつたことが認められるところ、〔証拠略〕中には、右認定のように代替の使用人を雇つたことに伴い、勢い人件費が増加し、収益が大幅に低下するに至つた旨の部分がある。しかしながら、原告本人尋問の結果によれば、原告は、右営業に関しては、営業主として発売元の日本勧業銀行(大阪支店)から売捌く宝くじを引受けて来たうえ、これを売子に渡して売捌かせるとともに、売子から受取る売上金を同銀行に納入する業務を担当していたにすぎないことが認められるところ、本件口頭弁論の全趣旨によれば、原告の行つていた右業務自体は、かねてからの例に従い機械的に反覆されていたものであることが窺われるから、代替者をして原告の行つていた労務に服させれば、収益の低下を防ぐことができるのはいうまでもないことであるが、この場合代替者に支払うべき報酬もその行う労務の種類、内容、程度からみて高額におよぶものとは到底理解できない。したがつて、〔証拠略〕中、原告の本件事故による負傷のため、原告の右営業による収益がかなり減少するに至つた旨の部分は、そのまま直ちに信を措き難く、他に原告において本件事故による負傷休業のため、営業上どの程度の損害を被るに至つたかについては、これを直接知るに足りる証拠はない。

しかしながら、さきに認定した原告の被つた傷害の部位、程度、治療の経過、期間、病状の推移、その従事していた業務の種類、内容等によれば、原告は、本件事故による受傷のため、事故当日の昭和四三年九月二一日から昭和四六年九月二〇日までの三年間にわたり営業活動につき前後平均原告主張のように一四パーセント程度の制限が加えられるに至つたものと認められるから、原告は、右認定のように制限を加えられるに至つた営業活動を補充するのに必要な代人を雇入れるための費用に相当する程度の損害を補つているものと認めて差し支えないところ、右代人雇入費用相当額は、原告と同年令の一般男子労働者が得ている平均賃金の一四パーセントと認めるのが相当である。

ところで、〔証拠略〕によれば原告は、本件事故当時四七才であつたと認められるところ、これと同年令の一般男子労働者が得ている平均賃金は、昭和三三年度賃金センサス(第一巻第一表)によれば、年間金一、〇三一、〇〇〇円と認めることができるから、これに基づき年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して原告の右逸失利益の事故当時における現価額を算定すると、別紙計算書記載のとおり金三九四、一九二円(円位未満切捨、以下同じ。)となる。

(三)  物損 金三一三、四五一円

〔証拠略〕によれば、被害車は、原告において昭和四三年一月二九日金四九五、〇〇〇円で購入し、爾来本件事故のときまで八か月間にわたり使用して来ていたものであるところ、本件事故により大破し、修理するには金三四八、一一〇円を要し、また、修理しなければ、金一〇、〇〇〇円の価値しかないものとなつてしまつたことが認められる。ところで、右認定被害車の取得価額、使用期間等よりすれば、本件事故当時における時価が少くとも右認定修理費を下廻る原告主張の金三二三、四五一円を下らないことは明らかであるから、原告は、被害車の破損により、その事故後の時価との差額に該当する金三一三、四五一円の損害を被つたものと認めるに十分である。

(四)  慰藉料 金四三〇、〇〇〇円

さきに認定した原告の被つた傷害の部位、程度、治療の経過、期間、後遺障害の内容、程度、その他諸般の事情によれば、原告の慰藉料額は、右金額と認めるのが相当である。

四  過失相殺

二項2において認定したところによれば、原告は、本件事故当時右側道路から加害車が接近して来ていることを知りながら、その動静につき仔細な観察を怠つたため、判断を誤り、加害車よりさきに交差点を通過できるものと軽信し、そのまま交差点内に進入し、もつて本件事故に会うに至つたものということができ、これによれば、本件事故の発生については、原告側にも過失が認められるところ、前認定被告井上の過失の程度等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告の損害の三五パーセントを減ずるのが相当であると認められる。

そうすると、被告において支払わなければならない損害額は、前項の合計金一、七六九、八八五円の六五パーセントに相当する金一、一五〇、四二五円ということができる。

五  相殺

被告会社の加害車破損による損害賠償請求権をもつてする相殺の主張は、民法五〇九条に照らし、主張自体失当として採用できない。

六  損害の填補

請求原因四項の事実および抗弁等三項の事実は当事者間に争いがない。

よつて、原告の前記損害額から右填補分を差引くと、残損害額は、金六五〇、四二五円となる。

七  弁護士費用

原告は、被告らに対し本件事故に基づく損害の賠償として前記金六五〇、四二五円の請求権を有するところ、被告らにおいて任意にその支払をしないため、本訴の提起、追行を弁護士に委任し、その費用、報酬として金三五〇、〇〇〇円を支払う旨約諾していることは、本件口頭弁論の全趣旨から明らかであり、本件事案の内容、審理経過、本訴請求額および認容額等に照らすと、原告が被告らに対し賠償を求め得る弁護士費用の額は、金六〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。

八  結論

よつて、被告らは、連帯して原告に対し金七一〇、四二五円およびうち弁護士費用を除く金六五〇、四二五円に対する事故翌日の昭和四三年九月二二日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は、右の限度で正当であるから、これを認容し、その余の請求は、理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小酒禮)

計算書

1,031,000円×0.14×2.731=394,192円

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